ぶらり街かど
 三野町

(徳島県三好郡三野町)

三野町役場総務課長の久保惇さん(57)は開口一番、「三野町は、徳島県内で最もマイナーな町だそうですよ」そう言って苦笑い。私は心の中を見透かされたようでドキリとしてしまいました。今回三野町を訪ねてみようと思ったきっかけは、まさにそれだったのですから。

十二月初めに美馬まで開通する徳島自動車道。その西隣に位置するのが三野町です。町に入ると、まず目に飛び込んできたのが紅葉温泉の看板です。案内板に誘われて山道を上ってみると、見えてくるのは、きれいに整備された三野町ふるさとパーク。その中心にあるのが紅葉温泉です。

そこから山路を上がると龍頭の滝、さらに上がると金剛の滝があります。滝下から見上げると、陽の光りが透けて真っ赤に輝くもみじと、真っ白い水しぶきの鮮やかなコントラストが鑑賞できます。

町を散策するうち、吉野川のアユ漁用の舟「カンドリ舟」が三野町で造られていることを知り、日を改めてもう一度三野町へ。早速「カンドリ舟」職人の一人である原久夫さん(71)を訪ねてみました。

七代目になるという原さんが「カンドリ舟」職人となって50年あまり。木材選びから細工の仕方まで、実に詳しく教えてくれました。「人の手でする職人の仕事は、人間の勘と経験でするもんじゃけん、ほんなにすぐにできるもんでない」と原さん。本物の職人気質がビシビシ伝わってきました。政治や自然破壊にまで話がおよび、ずいぶん長居してしまいました。

さらに、私をすっかり三野町びいきにさせてくれたのは、教育委員会の千葉勲さん(62)と辺見進一さん(42)。たっぷり半日かけて、町の隅々まで案内してくださいました。

中でも一番興味深かったのは、三村用水。江戸時代、干害がひどかったこの地域、山本新太夫が中心となり、伏流水を探しあて、決死の覚悟で山すそにトンネルを掘り、7年の歳月をかけて完成させたといいます。そしてその用水は、170年経った今も、まだ現役で田畑に水を送り続けているのです。なんだかぞくぞくする感動をおぼえました。

 三野町散策中、私の頭の中では、現在ほとんど使われなくなった、根性・努力・忍耐・勇気・希望などという言葉がぐるぐる回っていました。人が生きていく上で最も基本となるこのような心の姿勢を、三田村用水の歴史や「カンドリ舟」職人を通じて子どもたちに伝えていくことができる三野町は、とても恵まれているような気がします。

マイペースで自己PRが苦手な三野町、なんとなくいごこち良くて、ほっとする町でした。

1997年11月掲載


思い出して一言

三野町の人より三野町のことを知ってるかも?と思うくらいすみずみまで取材させていただきました。それも案内して下さった千葉さんたちのおかげです。

いっぱい取材しすぎて、原稿書くのに詰め込み過ぎてグチャグチャになってしまいました。


前回 ホームへ イラストマップへ 旅気分のインデックスへ 次回