街角ウォッチング
お松大権現(徳島県阿南市)

新聞紙上で合格者発表の記事が目に付く季節です。今年ばかりは、うちも他人事じゃありません。高校受験を間際に控えた息子を連れて、合格祈願に出かけることにしました。

猫神さんの愛称で親しまれているお松権現社は、合格祈願ばかりじゃなく選挙当選、商売繁盛などの祈願に訪れる人も多いようです。

まず出迎えてくれたのは少々無愛想な黒い猫、のっしのっしと鳥居まで案内してくれます。境内に入ってまわりを見渡してみると、あっちこちに猫。さすり猫や猫地蔵、何より見ごたえがあるのは社殿や奉納殿にぎっしり奉られた招き猫。「もう一万体を越えてるかもしれませんね。招き猫を一体借りて帰って願いがかなったら一体買い添えてお奉りするのがならわしになっているんですよ。」と社務所の阿瀬川順子さん(44歳)。

お神楽の音が響いてきました。わが物顔で寝そべっている猫たちの泣き声と妙に調和してるのが不思議です。祝詞を終えたばかりの社主阿瀬川寛司さん(49歳)は江戸時代から語り継がれているお松権現社の由縁を穏やかに話してくださいました。

庄屋惣兵衛さんの死後、妻のお松さんは借金に関する奉行の非道な裁きに死を決して直訴。お松さんはかわいがっていた猫、三毛に遺恨を伝え、共に処刑されてしまう。その後、怪事が続き悪だくみをした富豪と奉行は滅亡する。そのお松さんと三毛猫が奉られたのがお松権現社です。

お松さんの死をも恐れず正義を訴えた勇気ある姿が崇拝され、今では勝負の神様といわれるようになったそうです。

社主さんの話に感動している私をよそに、息子はさっさと絵馬に願い事を書いて奉納をすませたようです。帰りに、阿南で唯一の潜水橋、中央橋を渡って午尾の滝に立ち寄ってみました。あいにく雨不足で滝の水はかれていましたが、澄みきった冷たい空気がつーんと体にしみこんで気持ちが引き締まった気がします。

いよいよ勝負の日まであと数日。「正義は勝つ!」今の世の中、忘れかけたこの言葉を私から息子への激励の言葉にしたいと思います。無事に祈願成就して桜が咲くころぜひもう一度来たいものです。

1996年2月掲載


思い出して一言

ここの取材でお話を聞かせてもらった渡部さん御夫婦とは、これ以来、とっても親しくおつきあいさせてもらってます。ドキドキしながら声をかけたことを昨日のように思い出します。

人の出会いってほんとにおもしろいものです。(2000.2)


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