街角ウォッチング
伊 島(徳島県阿南市)

春先の不安定な気候のせいか、なんだか気持ちが沈んでいました。困ったことに、人に会うのがいやになりかけていました。

何年ぶりのことでしょう。一泊ひとり旅を決めました。行き先は四国最東端に位置する人口250人あまりの離島「伊島」。

土曜日正午、阿南市橘町答島港から美島丸に乗り込みました。天気は晴れ。同乗者四人、小さな船は前後左右に大きく揺れ、窓ガラスには波しぶきが打ち寄せてきます。

揺られること35分、いよいよ伊島に到着。強い潮風に吹かれながら港を出ると、旅館「桧垣」のおばちゃん桧垣ミチコさん(67歳)が出迎えてくれました。早速荷物を置いて伊島めぐりの始まりです。

島には車道がありません。移動手段はすべて徒歩。不安そうな私の気持ちを察してくれたのか伊島漁協の藤江登代美さん(49歳)が島を案内してくれることになりました。港近くにある漁協から松林寺に上がると伊島港付近の住宅密集地がすべて見渡せます。はるか沖には橘湾もくっきりと見ることができます。

松林寺からおにぎり山を右に見ながら遊歩道を歩き、石段を登り詰め、岸壁の突端に立つと、一気に視界が開け、目のまえに紀伊水道が広がります。大きな洞窟のあるカベヘラと呼ばれる所です。ここから果てしなく続く海をながめていると時間がたつのを忘れ、心がカラッポになっていくのがよくわかりました。

カベヘラからさらに灯台まで登って約二時間ほどの散歩を終え、民宿に帰ると待っていてくれたのは、あったかいお風呂とおばちゃん手作りのぜいたくな魚料理。海の幸をおなかいっぱいいただいて早々と床につきました。

翌朝早く、朝食をすませて、「桧垣」のおばちゃんと約束していた観音様参りに出かけました。峠の地蔵から西国三十三番のミニ霊場を参りながら、野尾辺の観音堂まで。周りの絶景を楽しむゆとりもなく、ひたすらおばちゃんの後を歩きました。帰り路は通夜堂から野尾辺平野のみごとな大湿原を横切って地蔵峠までのコースです。

ほんとによく歩きました。よく食べました。そしてよく眠りました。しっかりと地に足のついた生活をしている伊島の人たちの偽りのない優しさと、雄大な自然に触れ、心が洗われるという気分を実感することができました。私にとって桃源郷ならぬ、逃現郷となった伊島。自然の流れに背いた日々の生活の中、自分を見失いかけた時、休みに行きたい島です。

1997年3月掲載


思い出して一言

伊島の旅もいろいろありました。取材当日の朝、疲労と風邪で38度近くの発熱。

それでも予定変更はできず、病院で注射を打って、めちゃくちゃ揺れる(窓ガラスに吹き付ける水しぶきがすごくてまるで水中にいるよう)船に乗り込みました。なんとか無事着いたとホッとしたのもつかの間、伊島の方たちのマスコミ嫌いに閉口してしまうことに。

私が行く直前にあまり印象の良くない取材陣が仕事をしていったそうで、私はもろにそのトバッチリをうけることになってしまったのです。体調は悪いし、見知らぬ島だし、とてもとても不安になってしまいました。

でも一泊して伊島中あっちこち歩いていると、島の人たちのやさしさにいっぱいふれることができました。とくに民宿のおばちゃんには、ほんとによくしてもらいました。また来ますと言っておきながらなかなか行けないのが、気がかりです。(2000.2)


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